2021.12.17

藁を綯(な)うことは 人間の根源的な技術のひとつだと思うんです

岐阜県恵那市の山間―。
「日本の棚田百選」に選ばれた坂折の棚田があります。山の傾斜に沿って階段状に作られた田んぼは、日本の原風景ともいえる佇まい。
この坂折の棚田で作られた古代米を使ったしめ縄作りをしているのが、駒宮遊(ゆう)さんと塚本きょうこさんのお二人です。

駒宮さんたちが古代米を育てている「おいでん水田」の棚田(写真提供/おいでん水田)

しめ縄とは、一般的には「年神様をお迎えする入口を示すもの」で、神聖な場所であり、悪いものを寄せ付けない結界のような意味をもつといわれています。
駒宮さんがしめ縄づくりを始めたのは6年ほど前。生活困窮者の就労支援のために始まった活動に参加したことがきっかけでした。

お話を伺った駒宮遊さん

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駒宮さん

日本の伝統的な手作業で文化を継承しながら就労支援ができたら

との想いで活動を続けていたといいます。
現在は、障害のある方や子どもたちを募って田植えや稲刈り、藁の選別などを行い、地元の岐阜だけでなく名古屋市でもしめ縄づくりのワークショップを行っています。
しめ縄の材料となる古代米は、4月の苗づくりから始まります。5月の終わりには田植えをし、8月、稲穂をつける前に刈り取った稲を天気のいい日に2日間天日干しします。

収穫された古代米は白米と比べると茶褐色。稲穂が付く前に青田刈りをしたものをしめ縄で使います

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駒宮さん

乾燥する前の稲藁はすごく重たくて、干すのは重労働です(笑)。でも、夏の暑い日に一気に乾燥させると、柔らかくて青々とした藁になるので欠かせない作業なんです

と、駒宮さん。
穂をつける前に稲を収穫するのは、柔らかく色のいい藁を作るため。そしてもうひとつ訳があります。

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駒宮さん

しめ縄は神様のためのもの。私たちが食べるお米を収穫した“後”のもので作るのでは失礼にあたることから、収穫の前に刈り取った稲で作るのが習わしだといわれています

日常使いは右綯いで2つの束をより合わせますが、神様のためのしめ縄は左綯い。3つの束を合わせて作ります

年末から飾るしめ縄は、小正月の1月15日や節分行われる「どんど焼き」で焼納する場合が多いですが、地域によっては一年中飾っておくのが習わしというところもあります。
一年じゅう神様に見守ってくれた神様に
「今年も一年ありがとうございました」
そして、
「来年もよろしくお願いします」
という想いを込めて、年末にしめ縄を新調し、新しい年を迎える―。
しめ縄を飾るという習慣すら薄れてきたように感じる時代ですが、いま一度、日本独自の習わしに目を向けてみるのも大切なことだと気づかされます。

今はコンバインで稲を収穫する農家が多く、稲が粉々になってしまい藁として残らなくなっています。藁の入手が難しくなったため、量販店に並ぶしめ縄は藁ではなく、ビニール製のものも多く並んでいます

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駒宮さん

藁を綯(な)う作業は、人間の根源的な技術のひとつだと思うんです。そういった手仕事で、日本の伝統的な文化を継承できるのがしめ縄作りなんじゃないかなと思います

と駒宮さん。

しめ縄のカタチも様々。感謝と祈りを込めて自分だけのオリジナルを作ってみるのもいいかもしれません

駒宮さんたちが作るしめ縄は、日本に昔から伝わる“祈りのカタチ”を大切につないでいます。

古代米の苗を育てる田んぼにて。左からコダマプロジェクトの生活雑貨を担当する愛子さん、駒宮さん、筆者

(取材・文/まつおまいこ)

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